~第9回サロン・ド・脳~

演者:礒村宜和 先生(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 細胞生理学分野)

題目:予想外の結果を生み出す脳科学

日時:2023年12月14日(木) 15:00~18:00

場所:京都大学 総合研究8号館 1階 講義室1

概要:私たちの研究室では、ラットやマウスが状況変化に応じて適切な行動を発現するオペラント学習を担う脳の仕組みを、特に大脳皮質や海馬、大脳基底核、視床などの機能的回路に注目して、生理学的な実験手法をもちいて調べています。

 今回は、その過程で得た解釈に困る予想外の発見をいくつか議論の俎上に載せます。

1)後頭頂連合野は行動発現を「同側」優位に支配していた

2)背側線条体へのドーパミン放出は報酬獲得により「減少」した

3)海馬の鋭波リップル活動は報酬獲得(飲水)で「消失」した

 一見、定説や常識に反する観察事実をどのように解釈すれば納得できるでしょうか。事実は事実、解釈は解釈。一緒に謎解きのディスカッションを愉しみませんか。

〜サロン・ド・脳〜 第9回目は礒村宜和先生

 第9回サロン・ド・脳は東京医科歯科大学の礒村宜和先生にご講演いただきました。礒村先生は13年前にも「脳のセミナー」(https://s-shinomoto.com/nousemi/nousemi100511.htm)で講演されています。

 まずはサロン・ド・脳おなじみの研究の道に入るまでのお話し。大阪大学医学部卒業後、大学院では京都大学へ。自由に研究できる環境下にある一方、なかなか実験がうまくいかず、鴨川のベンチで空見る日々。しかし最終的に論文3報(+共著3報)をしっかり出し、アメリカのBuzsaki研へ。その後多くの日本人研究者が活躍する研究室ですが、当時、初の日本からのポスドク留学者だったそうです。自由の国アメリカでも自由に研究を進め、in vivo intracellular recordingに苦労しつつ、成果を出されます。

 その後、理化学研究所へ。理論系の研究室にあって、独力で実験をされたそうです。その後若くして玉川大学で独立。自由な研究を大切にする一方、教育者としては「鬼」の一面も。「自由な研究」への一貫した熱い思いを感じました。

 いよいよ研究の話へ。講演のテーマは「予想外の結果を生み出す脳科学」。3つのテーマでそれまでの定説、新データと新説をお話しいただきました。

 1つ目のテーマでは、大脳皮質による反対側の手足の運動制御のお話。反対側の前肢運動を支配する霊長類の頭頂連合野とは異なり、ラットのPPC(後頭頂連合野)では同側の前肢運動を支配するというデータ。なぜげっ歯類と霊長類で異なるのか。そもそもなぜ反対側支配なのかについての仮説から始まり、2足歩行と4足歩行動物では異なる脳の制御システム仮説を提唱。生物の謎の面白いお話しでした。

 2つ目のテーマでは線条体におけるreward prediction errorの話に移ります。Dorsomedial Striatum (DMS)ではワーキングメモリーに依存したタスクでのrewardに対する応答が「減少」するというデータ。つまり、ワーキングメモリーに依存したreward predictionがDMSのドーパミン量を決めていそう。報酬がもらえる期待値と実際のrewardの差分がDMSのドーパミン量を決定するシミュレーションモデルを提唱。議論が盛り上がりました。

 最後に海馬のShard-wave ripple(SWR)について、これまでのSWRの定説を覆すunpublishedデータのお話し。SWRの意義は何か、新説をお話しいただきました。

 寒い時期でしたが、熱い議論で盛り上がりました。

 年末のお忙しい時期に講演いただいた礒村先生、そして参加していただいた皆さん、本当にありがとうございました!

文責:後藤