~第7回サロン・ド・脳~:四本裕子先生

演者:四本裕子先生 (東京大学総合文化研究科)

題目:「時間」の知覚の神経機序

日時:2023年6月27日(火)15:30 - 18:30

場所:京都大学 稲盛財団記念館 3F大会議室

概要:我々は意識的・無意識的に常に時間情報を処理しているが、時間に特化した脳領域は存在しない。時間情報処理には、低次から高次の複数の脳領域が関わっており、それらの関係は、時間長やモダリティによって異なる。講演では、ヒトの大脳皮質の同期的活動に注目して行った行動実験、シミュレーションとモデリング、脳波実験など、一連の時間知覚研究を紹介する。加えて、日々の研究活動を通して考えていることや、時間研究の面白さ、研究生活で感じる苦悩など、参加者のみなさんと意見交換しながらざっくばらんにお話したい。

〜再開! サロン・ド・脳〜 第七回目は四本裕子先生

 コロナ禍で中断していたサロン・ド・脳が,ついに再始動です!

 2020年3月に予定していた四本裕子さん(東京大学総合文化研究科)のトークが,3年以上の時を経て,ようやく実現しました.対面での研究会も制限される中,すべての研究の語らいがオンラインで行われる中,サロン・ド・脳は対面での実施にこだわって,この時が来るのをじっと耐え忍んでいました.時間と空間を共にすることで,研究に対する熱量も含めてサロン全体で共有したいとの強い思いからです.

 

 ということで,2023年6月28日15:30,四本さんのトークがスタートです.今回は,コロナ禍前とは場所を変えて,稲盛財団記念館の大会議室がサロン会場.70名以上が参加する盛況振りです.トークのタイトルは「「時間」の知覚の神経機序」.コロナ禍でサロンを中断していた3年間が長かったのか?短かったのか?まさにサロン再開のテーマとしてぴったりです.

 まずは自身の研究者人生を振り返りながらの自己紹介から.学生さんも多く参加するサロンにおいて,後輩たちの進路の指針にもなる恒例の人気コーナーです.東大修士を修了後に渡米.そこでPhDを取得して,そのままポスドクとしてアメリカで研究を続け,その後に日本に戻ってきます(日本に帰ってくるときに直面した「苦悩」についてはアフターサロンの懇親会で話を伺いましたが,ここでは秘密にしておきます).その後,日本での若手教員時代に海外からのゲスト対応を担当する際に,ゲストの執筆した論文を予習する中で,今回のトークのテーマである「時間知覚」の面白さに出会ったとのこと.

 それでは研究の本題へ.多くの研究をされている四本さんですが,今回のトークの柱は時間知覚研究に関する「神経科学的アプローチ」と「計算理論的アプローチ」について.

 神経科学的アプローチでは,心理物理実験と脳波計測を巧みに融合させながら,詰め将棋のように緻密に時間知覚のメカニズムを明らかにしていきます.実験刺激は視覚フリッカ.明滅する映像は知覚時間が長くなるとのこと.このメカニズムとして着目するのが,脳波で観察する神経引き込み.明滅映像に脳波が引き込まれる結果を披露していきます.視覚フリッカによる知覚時間の延長はロバストな現象で,トーク内でのデモ映像を見たオーディエンスも,自身の経験となって興味津々.絶え間なく,会場から質問が飛んできます.

 ここまでの神経科学的アプローチの話題で,既に2時間以上経過.さすがに疲れが見え始めるかなと思いきや,四本さんはまだまだお元気.5分程度のショートブレークをはさんで,計算理論的アプローチの話題に移っていきます.ここではマルチモーダル(視覚と聴覚)な時間情報統合の効果や,マルチドメイン(時間知覚と数知覚)の相互作用の効果を,ベイズ理論的枠組みを使って説明していきます.合言葉は「知覚はベイズ的だ!」.オーディエンスに多く紛れ込んでいたベイジアン(ベイズ脳の信奉者)も大喜び!懇親会の時間が迫る中,熱い討論が18:45まで繰り広げられました.3時間以上にわたる長丁場,本当にお疲れさまでした!

 

 

 アフターサロンの懇親会も大盛り上がり.京大内外の学生さんも含めて,20名以上の参加者が熱い議論(?)を繰り広げます.初めての参加者も多く,一人ひとり簡単に自己紹介.

 Oさん:このサロンは5年前に私がSさんに相談して始めました.私のおかげでサロン・ド・脳が存在します.

 私:自画自賛やなぁ

 一同:(爆笑)

 というやり取りがあったとか,なかったとか.いや,本当に楽しくて貴重なサロンと懇親会です.Oさんが最初に声がけしていただいたおかげです.コロナ禍の3年間,待ち焦がれた時間と空間でした.

 今後も3~4カ月ごとのペースでサロン・ド・脳は対面実施の予定です.ざっくばらんに脳を語らうことができる場ですので,これからも皆様のご参加をお待ちしております.

文責:水原啓暁