~第2回サロン・ド・脳~ 小村 豊さん

演者: 小村 豊 先生 (京都大学 こころの未来センター)

題目:Feeling of Knowing or Unknowingの分岐機序

日時: 2018年10月12日(金) 15:00 - 18:00

場所: 京都大学医学研究科・先端科学研究棟1F 大会議室

概要:我々は、世界のすべてを把握しているわけではありません。身の回りの環境情報ですら、我々の理解からはみ出す情報と、理解に収まる情報に分かれています。では、このような「分かった」という感覚は、どのように獲得しているのでしょうか?これまで、Feeling of Knowing(FOK)という概念は、専ら、記憶の研究で用いられてきましたが、私たちの研究グループは、知覚の領域において、その端緒がすでに見られること、そして、それが行動にも影響を及ぼすことを、明らかにしつつあります。知覚におけるFOKの神経機構に関わるエビデンスを紹介しながら、主体が、環境に対して、どのようなロジックを元に向き合い、情報を獲得し、利用しているのかを議論します。 また現在、取り組んでいる「意識を可視化する」プロジェクトについても、言及できたらと思います。

〜サロン・ド・脳〜 第二回目のゲストは小村 豊さん

 小村さんは、2016年に京大教授に着任し、最近CREST研究に採択された気鋭の研究者。「西郷どん」で今年注目の集まる鹿児島県の出身で、少年時代は、野山をかけまわり、高校時代は、好きな本を乱読してすごし、東京大学理科3類→医学部へと進学。

 大学時代は、(自称)「困った?学生」という一面もありながら、学部卒業時には、

   ・ 他人の流れには乗らない。

   ・ 自分の好き・嫌いを大事にする。

   ・ 認識や思考には、関わりたい。

と考えていたとのこと。

 臨床医を経験した後、大学院進学の際、その当時隆盛を誇っていた分子生物学には目もくれず、「好き・嫌いはどう生まれるのか?」に興味を持ち、東京からはるばる、富山の小野武年先生の研究室へ。ラットにおいて、従来は感覚の中継地点とみなされていた視床に、報酬に対して予測的ビルドアップ活動を示すニューロン群が存在することをNature誌に発表。

 富山で自然の良さに魅せられたこともあってか、これまでの生活を振り返り東京と競争には向いていないかも?と感じていたときに、32歳の若さで、つくばの産総研で独立。北澤先生、河野先生などサルの電気生理の専門家が近くにいたこともあり、ラットからサルへと実験対象を転回。

 その後、さきがけに採択され、霊長類で発達している脳領域、視床枕をターゲットにして、視覚分別におけるconfidenceと視床枕の活動が相関することを解明(Nature Neuroscience誌に発表)。その後、薬理学的に視床枕の活動を低下させることによって、confidenceにおける役割(因果性)を示すことにも成功した。

 ここが今回のトークのキモで、タスクデザイン、confidenceの定義、理論モデルの詳細、視床枕が関与しうる時間窓、などについて、実験家、理論家から、ここぞ、と多くの質問が集まり、議論が深まった。

 今後は、ヒトでの研究、意識研究にも発展させていくとのこと。

 小村さんが研究を行う上で意識しているということで一貫して印象的だったのは、流行には乗らずに、重要だと思うテーマを吟味して、オリジナルの研究をする、ということだった。

 

 

 飲み会の席では、小村さんが、実は、T先生のご参加を望まれていた、と聞きました。次回はぜひお願いしたいです。

 今回は、登録ありのみでも50名弱の参加で、会場は熱気に包まれていました。北海道、関東、東海、関西 方面から、大学生、大学院生、ポスドク、教職員、社会人の方にご参加いただました。第一回講演者の村山さんにも、ご参加いただきました。

 今後も、京大で活発な議論がなされる場を提供できれば、と思います。

文責:小川 正晃 (第2回ホスト)