~第1回サロン・ド・脳~ 村山正宜さん ハードコア神経生理学

演者:村山正宜氏 (理化学研究所 脳神経科学研究センター)

題目:触知覚とその記憶の定着に関わる皮質間回路活動

日時:2018年6月8日14:40 - 18:00

場所:京都大学 清風荘 第二会合室

概要:脳内における皮膚感覚の知覚(触知覚)メカニズムには未だ不明な点が数多く残っています。例えば、脳内のどの回路が知覚に関連するのか、回路間での情報の流れおよびどの神経活動が知覚の内容を表すのか等はまだ解明されていません。近年、我々は光遺伝学的手法を用いた回路操作により、触知覚に必須な脳回路の同定に成功しています。この回路を選択的に抑制すると、マウスは正確な触知覚が得られません。例えば、ツルツルした床とザラザラした床とを区別できなくなります。また我々は、この回路が睡眠中にも活性化することを発見しています。ノンレム睡眠(深い眠り)中にこの回路を抑制すると、触知覚の記憶が阻害されます。本講演ではこれら知見の概要を紹介するとともに、触知覚のセントラルドグマの解明に向けた取り組みを紹介します。

〜サロン・ド・脳〜 第一回目のゲストは村山正宜さん

 2010年に若干32歳で「脳のセミナー」で講演をされた村山さんは,その後さらに邁進されて,いまや押しも押されもせぬ研究者です.組織委員全員の賛同で第一回講演をお願いすることになりました.

 村山さんの話の前に島崎から前口上.2001年から15年続いた脳のセミナーの終了をうけて,新たな体制でスタートした〜サロン・ド・脳〜.長く時間をとって研究人生も含めて話を聞き,自由闊達な議論が行われる場所.脳について語りたい人が集う場所.そんなサロンのような場所の復活を願って有志のメンバーで企画させてもらいました.

 運営メンバーの紹介の後,村山さんのトーク開始.

 

研究人生紹介:村山さんは東京薬科大学宮川ラボで博士取得後,Eccles, Katz, Sakmannの系譜からなるLarkumラボで研究員.学生まではin vitroをしていたがin vivoのパッチクランプのダイナミズムに感動してvivoに転向.T川大学S島さんの一言もvivoへの転向の決め手に.

 

2010年の脳のセミナーを地獄の脳セミナーと表現.村山「トラウマを克服するためにここに来た」.

今回のテーマ:ハードコア神経生理学.村山「触覚だけが物理的な相互作用がある」「他の感覚を止めることは想像できても皮膚感覚を止めることは想像できない」 触覚知覚への熱い言葉.そしてそれに立ち向かうハードな実験の数々.

 前半のトークに突入.触覚は脳のどこでどのように表現されているか.触覚信号の経路を徹底的に分析.S1の活動がM2を介して戻ってきてS1の活動のlate componentを引き起こす.これには樹状突起スパイクが必要.このシナリオのすべてを実験的に証明していくエネルギッシュな研究です.

 

村山「レート推定は島崎さんの方法を使わせてもらった」

島崎「ありがとうございます(笑).証拠写真撮らせてもらいます」 パシャリ.

外山「まだこれだけがlate componentのメカニズムだとは思わない」「一発でスパッと決める実験がほしい」という村山さんが望んでいた厳しいつっこみも.

 後半はノンREM睡眠による記憶の定着にM2からの投射が効いていることを示したサイエンス論文の解説.Closed-loopでNREMを検出してM2をoptogeneticで不活性化すると記憶できなくなる.逆にNREM中に S1, M2 を活性化させると覚えた記憶が薄れなくなる.さらにSleep deprivationでもNREMに似せた同期光刺激を与えると記憶は薄れない.村山「スリープは必要ない.皆さん安心して徹夜できる日がくるかも」

 最後はunpublished dataの解説.村山「星空のように神経活動を見てみたい」.大規模データのすさまじさに一同驚嘆.にもかかわらず,外山「Sherringtonはすべての神経活動を捉えたいと言っていた.と同時に,捉えてもきっと脳はわからないといった」.これに答える村山さんの今後の活躍に期待.

 知覚の本質にハードコア神経生理学で挑戦し続ける宣言.2010年当時のセミナーの記録では研究目標を、「5層樹状突起の活動が感覚入力とどのように相関するか,覚醒と睡眠にどう相関するかについて答えを出すこと」としていた.これを今日,圧巻のデータと業績を持って解答を披露された.この有言実行ぶりに今日の言葉にも期待がかかります.

外山「第一回にふさわしいトークだったね」と篠本先生に一言残されて帰途.

 懇親会の席では参加者の自己紹介も行い親交がはかられました. 村山さんの熱いトークに触発されて,最近の研究の話題がつきませんでした.京都大学に脳の研究者が集まってきている機運を感じさせ,横のつながりもできていく,そんなわくわくを皆で共有した1日となりました.

文責:島崎

議論の様子